離婚後の共同親権とは?導入する背景やメリット・デメリットをわかりやすく解説!
公開日:2024年9月20日
子どもの父母がいずれも親権を持つことを共同親権といいます。これまでの日本の民法では、離婚した場合には両親のいずれかしか子どもの親権を持てませんでした(単独親権)。しかし、2024年に成立し、2026年5月までに施行される予定の法改正により、離婚後の共同親権を選択できるようになります。
共同親権の導入により、離婚後に別居する親も子育てに積極的に関われるようになります。しかしその一方で、虐待やDVを回避できないケースが発生するなどの問題点も指摘されています。
この記事では、共同親権とはどのような制度か、メリットやデメリットについてわかりやすく解説します。
目次
民法改正の背景と導入はいつから?
離婚後の共同親権を認める改正民法は、2024年5月17日の参議院本会議で賛成多数により可決・成立しました。改正法は2026年までに施行される見込みです。
民法改正の背景
子どものいる夫婦が離婚すると、どちらが親権を持つかは大きな問題です。日本ではこれまで、離婚後は父母のどちらか一方しか親権を持てない単独親権のみが認められていました。今回、共同親権が認められた民法改正には、どのような背景があったのでしょうか。
海外では離婚後の共同親権を認めている国が多数派
2020年に法務省が公表した「父母の離婚後の子の養育に関する海外法制調査」によると、日本以外のG20諸国を含む24ヵ国のうち、22ヵ国が離婚後の共同親権を認めています。
共同親権を認めている国にはアメリカ、カナダ、ブラジル、メキシコ、韓国、中国、イギリス、ドイツ、フランス、オーストラリアなどが含まれます。一方、日本と同様に離婚後の単独親権のみを認めている国は、インドとトルコの2ヵ国だけでした。海外では離婚後も両親が協力して子育てをすることが一般的であり、共同親権が主流となっています。
このように、多くの国では離婚後も子どもが両親双方と関わりを持ち、安定した親子関係を築けるように共同親権が認められています。
欧州連合(EU)の欧州議会本会議による「子どもの連れ去り」への指摘
日本で共同親権が議論されるきっかけの一つに、欧州議会本会議における「日本人の親による子どもの連れ去り」への指摘が挙げられます。
2020年7月、欧州議会本会議は「日本における子の連れ去りに関する決議」を採択しました。具体的には、国際結婚で離婚した日本人の親が子どもを日本に連れ帰り、他方の親との交流を断絶させるケースが問題視されたのです。
また、ハーグ条約に基づく子どもの返還の執行率が低いことも指摘されました。ハーグ条約とは、国際結婚をしたカップルが離婚した際に子どもを元の居住国に戻すことと、親子の面会交流の機会の確保を目的とした条約です。
欧州議会は日本に対して共同親権の導入を求める決議を採択しました。この批判から、日本の単独親権制度が国際標準から外れている点が問題となり、離婚後の共同親権導入に向けた議論につながりました。
離婚後の共同親権とは
離婚後の共同親権とは、子どもの父母それぞれが親権を持つことです。ここでは、共同親権の制度の特徴を、単独親権との違いなどから見ていきましょう。
親権とは
親権とは、未成年の子どもを成人まで育て上げるために親が負う権利と義務のことです。親権の具体的な内容は、以下の2つに分けられます。
- 子の身上に関する権利義務(身上監護権)
- 子の財産に関する権利義務(財産管理権)
身上監護権とは子どもを養育する権利であり、監護教育権、居所指定権、職業許可権などが含まれます。一方、財産管理権には、子どもの財産を管理する権利や、子どもの代理として契約などの法律行為を行う権利が含まれます。
婚姻中の親権は子どもの父母それぞれが持ちますが、これまでの日本では離婚後はどちらか一方が親権を持つとされていました。親権者は、離婚の際に父母の話し合いによって決めることになっています。話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所での離婚調停や離婚訴訟の手続きによって親権者が決まります。
共同親権と単独親権の違い
共同親権と単独親権の最も大きな違いは、離婚後の子どもの養育に関する決定権を誰が持つのかという点です。
単独親権の場合、親権を持つ親が子どもの養育に関する決定を一人で行います。もう一方の親は、親権者の同意なしに子どもの学校や医療、住居などを決めることができません。一方、共同親権の場合、父母が共同で子どもの養育に関わる事項について決定します。重要な決定事項については、父母双方の合意が必要です。
この違いは、子どもの生活に大きな影響を与えます。単独親権では、親権を持たない親は子どもの生活に関わりにくくなるケースが多いです。これに対して共同親権では、子どもは離れて暮らす親とも密なつながりを保ちやすくなります。
ただし、共同親権が常に最善の選択肢であるとはかぎりません。父母の関係によっては、共同親権が子どもの利益を損なう可能性もあるのです。
共同親権が認められないケースとは
共同親権は子どもの福祉を最優先に考え、両親が協力して子育てに関わることを目的としています。
したがって、離婚後の共同親権が子どもの利益を損なうと考えられる場合には、単独親権とすることが義務付けられています。次のいずれかに該当する場合は、単独親権としなければなりません。
- 父親または母親が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき
- 父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれの有無、父母の協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき
具体的には、以下のようなケースが当てはまると考えられます。
- 親の一方から子どもへの虐待がある
- 親の一方から他方へのDVがある
- 親同士の仲があまりにも悪く、子育てに関する意思の統一が期待できない
- 親同士の住む場所が遠いために、同居していない親と子の交流が困難である
父母間で共同親権について合意に至らない場合、裁判所が親権者を指定します。上記以外のケースでも、裁判所は個々の事情を総合的に判断し、子どもの利益の観点から検討したうえで、共同親権を認めない可能性があります。
共同親権になった場合の親の権利はどう変わる?
共同親権のもとでは、子どもの養育に関する決定権は父母が共同で持つことになります。改正前の離婚によって単独親権となっている場合でも、家庭裁判所が「子の利益のため必要」と認めた場合にかぎり、親権者変更の手続で共同親権に変更が可能です。
離婚後に共同親権を選択した場合の親の権利は、以下のようになります。
事項 | 決定権 |
---|---|
重要な事項(受験・転居・パスポートの取得など) | 両親の合意が必要 |
日常の行為(食事・買い物・習い事など) | 単独で決定可能 |
急迫の事情(緊急手術など) | 単独で決定可能 |
共同親権を選択すると両親が協力して子どもの養育に関わる必要があり、重要な決定事項については両親の合意が求められます。
さらに、虐待などがない限り、子どもと別居する親の面会交流の促進が期待されています。また、祖父母との面会交流が行われていない場合、面会の申し立てが可能となる予定です。
共同親権のメリット
離婚後の共同親権が認められるメリットには、主に次の3つが挙げられます。
- 離婚後も育児を分担できる
- 親権で争うケースが減少する
- 面会交流や養育費の支払いが行われやすい
それぞれについて、以下にてくわしく解説します。
離婚後も育児を分担できる
共同親権は離婚後も父母が育児を分担しやすくなるという大きなメリットがあります。共同親権のもとでは父母それぞれが子どもについての重要な決定に責任を持つため、積極的に育児への参加が期待されます。
たとえば、子どもの教育方針や医療に関する重要な決定などを両親で話し合い、共同で意思決定をすることができます。また、別居親も学校行事への参加や、定期的な外出、長期休暇中の滞在など、さまざまな形での子どもと関わりやすくなります。
このように、共同親権は離婚後も父母が協力して子育てができる制度であり、子どもの成長にとってプラスの影響を与える可能性があります。
親権で争うケースが減少する
共同親権は親権争いの減少につながると期待されています。共同親権では離婚後も父母がともに親権を持つため、どちらか一方だけが親権を失うという状況が発生しないためです。これまでの制度では、親権獲得を巡って両親が激しく争うケースが少なくありませんでした。
たとえば、裁判所の調停や訴訟を通じて長期にわたり争うケースや、子どもを勝手に連れ去るといったケースもありました。しかし、共同親権が認められるようになれば、このような争いは起こりにくくなると考えられます。
共同親権は親権争いのリスクを軽減し、子どもにとってより安定した環境を提供できる可能性があるといえるでしょう。
面会交流や養育費の支払いが行われやすい
共同親権により、面会交流や養育費の支払いがより確実に行われるようになると期待されます。別居する親が子どもの養育に対する責任を継続的に認識するようになるためです。
厚生労働省の「令和3年度全国ひとり親世帯等調査」によると、養育費を継続して受け取っている母子世帯は全体の28.1%にすぎません。養育費の支払いが滞るのは、親権を失った親が子どもとの関わりを持てなくなり、養育への責任感が薄れてしまうためと考えられます。
共同親権のもとでは離婚後も父母が親権を持ち続けるため、子どもとの関係性を維持しやすくなります。定期的な面会交流がしやすくなり、それにともなって養育費の継続的な支払いも期待できるでしょう。
共同親権は子どもにとって経済的な安定をもたらし、両親との良好な関係を維持するうえで、重要な役割を果たすと思われます。
共同親権のデメリット
共同親権の導入には反対の声もあり、デメリットを知っておく必要もあります。共同親権には、主に次のようなデメリットが考えられます。
- 二重生活で子どもへの負担が大きい
- 教育方針の違いからトラブルが起きる
- DVやモラハラから逃げられないリスク
二重生活で子どもへの負担が大きい
共同親権を選択すると子どもが父母の間で二重生活を送り、大きな負担を感じるリスクがあります。両親が共同親権を持つことで、子どもと同居する親は別居の親との面会交流を拒否できません。
そのため、平日は母親と過ごし、週末は父親と過ごすなど、子どもが父母を行き来する生活パターンが生じる可能性があります。子どもは頻繁に生活環境を変更しなければならず、それぞれの家庭でのルールや習慣の違いに適応しなければなりません。
また、父母の住居が離れている場合、子どもは長距離の移動などに時間を取られ、友達と遊べなくなったり、学習の時間を確保しにくくなったりする可能性もあります。
このように、共同親権制度には子どもの生活が不安定になり、心理的・物理的な負担を負わせるリスクがある点を認識しておく必要があります。
教育方針の違いからトラブルが起きる
共同親権では、教育方針の違いから父母間でトラブルが発生する可能性があります。離婚後も両親がともに子どもの重要な決定に関与するため、意見が合わない場合、合意できないおそれもあるためです。
たとえば、進学先の選択のように子どもの将来に大きな影響を与える決定について、父母の価値観や考え方の違いが子どもを巻き込むリスクも考えられます。
このような対立は子どもに心理的ストレスを与えてしまいます。共同親権は両親の協力による子育てが前提であり、教育方針のすり合わせは不可欠となるのです。
DVやモラハラから逃げられないリスク
共同親権制度の導入には、DVやモラハラの被害者に対する配慮が重要な課題となっています。改正法では、子どもに対する虐待や親同士の間のDVなどのおそれがある場合には単独親権を選択しなければならないとされており、被害者の安全を確保する対策が示されました。
しかし、裁判所がDVやモラハラなどのおそれを見逃す懸念も指摘されています。共同親権によって、親同士として密に付き合うことを強いられた結果、被害者が再びDVやモラハラのリスクにさらされるリスクが否定できません。こうした課題に対応するため、行政や福祉などによる充実した支援体制の整備などを求める附帯決議が行われました。
まとめ
海外においては離婚後の共同親権が主流であることなどを踏まえて、日本でも2026年5月までに共同親権を選択できる改正民法が施行されます。
共同親権は、離婚後も両親が育児に関わることによるメリットが期待されています。一方で、親同士の間でDVやモラハラなどが行われていた場合は、共同親権が災いして被害者が逃げにくい状況になるといったデメリットにも注意が必要です。
離婚を検討している方やすでに離婚している方は、共同親権の導入による影響をよく理解し、今後の動向にも注目するようにしましょう。
執筆者:松田 聡子(まつだ さとこ)
執筆者保有資格:日本ファイナンシャル・プランナーズ協会認定 CFP®認定者、DCアドバイザー、二種外務員資格
執筆者保有資格:日本ファイナンシャル・プランナーズ協会認定 CFP®認定者、DCアドバイザー、二種外務員資格
監修者:阿部 由羅(あべ ゆら)
監修者保有資格:弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:54491)
監修者保有資格:弁護士(埼玉弁護士会所属・登録番号:54491)
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