自動車を自動制御することで、何ができるのか?

——まず、MCCSというデバイスとGMSが提供するサービスについて教えてください。

MCCSというのは、自動車を始めとするあらゆるモビリティを遠隔で起動制御、また位置情報の把握ができるようにするデバイスです。たとえばローンで車を買った人が支払いをしなかった場合、エンジンを掛からなくして車を使えないようにしたり(※)、位置情報を特定して回収したりすることができます。ただしコンビニや金融機関で支払いがなされれば、30秒~1分程度ですぐに使えるようになります。この仕組みによって、これまで金融機関の与信審査が通らずに車を買いたくても買えなかった、使いたくても使えなかった人々にも車と収入を得る機会を提供する、というのがGMSのサービスです。未払い、貸し倒れリスクを担保する上ではMCCSは金融機関にとって大きな可能性を秘めているのです。

(※)編集部注:運転中にエンジンが止まることはありません。

私たちはファイナンスに焦点を当ててビジネスを行っていますが、MCCSの利用価値は非常に幅広いです。国が利用すれば渋滞緩和など流入規制を行ったり、車検切れや税金未納の車は走らせないといった物理的措置にも使ったりできるでしょう。また、ドローンや建機、農機などあらゆるものに付けられますから、さまざまな使い方が考えられると思います。

世界中の「明日のためにがんばろうとしている人」に機会を与えたい。

——事業のスタートはフィリピンとのこと、その理由は?

僕はもともと、2社ほど電気自動車ベンチャーを経営していたんです。当時、フィリピンにおいては排気ガスによる大気汚染、騒音などの環境問題が切実な社会問題になっていました。そこで政府を挙げて電気自動車を導入しようという取り組みがなされ、現地で電気自動車の普及に取り組んだわけです。

しかし、立ち上げてすぐに厳しい現実を目の当たりにします。それは、一般の方々に電気自動車を売ろうとしても、彼らが与信審査に通過しないというものでした。フィリピンでは国民の80パーセントがBOP(Base of the Economic Pyramid、低所得)層で、現金で車が買える人は皆無です。しかしローンかリースを検討したくても、お金を貸すと言う金融機関はありません。預金通帳すら持っていないのです。だから、本来なら廃車になるようなボロボロの車を乗りつぶすまで使っていたんですね。購入環境を変えないことには何も始まらない。それがこのビジネスの原点でした。もちろんフィリピンに限定するつもりはなく、ゆくゆくは世界に広げていきたいと考えています。

タクシーや物流など車を持つことで、できるようになる仕事はたくさんあります。特に新興国では、ドライバーは安定収入が期待できる魅力的な仕事です。しかし、今は世界中で20億人の方が車を持ちたいと思っても持てない状況があり、貧困層の方々は増え続けているのです。

日本はあまり関係ないだろうと思っている人も多いのですが、金融においては何も手立てが行われていません。仕事のために車が欲しくても保証人がいなくて買えない人もいます。年齢の問題でローンが借りられない人もいます。明日のためにがんばろうと思っている人にがんばるなと言っているようなものじゃないですか。僕はそういった現状をテクノロジーの力で解決していきたいのです。

こだわったのは、ライフラインづくりを全力で支援すること。

——MCCSおよび関連サービスを開発するにあたって、どのような点にこだわりをおもちでしたか。

タクシーなど、商業ドライバーのためのサービスにすることです。
車を使うことで収入が得られ、利用代金を差し引いたお金が家族の衣食住になる。そういった使い方を全力でサポートしようと考えました。

また、私たちが考える自動車IoTは、リース代金だけで儲けを得ようというものではありません。利用者のメリットになる情報を価値化する、それが目的です。

たとえば、MCCSは起動制御だけでなく、データを蓄積するプラットフォームシステムにつながっています。ですから、1日何キロ走行したか、支払い状況はどうか、といった利用履歴がリアルタイムで把握できるんですね。こうしたデータは、利用者が「真面目に車を使って働いた」ということの証明です。しっかり働いた人は、子どもの学資ローンや住宅購入のチャンスなど、次の与信につながっていくというしくみです。これで新しい融資が実行されることになれば、まさに「新しい与信時代の幕開け」といっても過言ではないでしょう。

開発、実証、実績づくり。ビジネス化への長い道のり

——創業から今に至るまで、どのような展開でビジネスを行ってこられましたか。

会社を設立したのは2013年です。最初はデバイスを開発し、続いてデータを蓄積して可視化するプラットフォームをつくりました。しかし実績がない状態ではサービス化が困難です。そこで投資家から募った資金でトライシクル(三輪自動車)を購入し、MCCSを取り付けてリース同様の車両提供サービスとして、実績をつくりました。

この実績がもととなって、フィリピンにおいてはIoTのプラットフォーム企業のセンタープレイヤーとして通信会社や電力会社、料金回収会社など現地最大インフラ大手の会社と提携することができました。自動決済システムではフィリピンすべての金融機関と連携しています。これにより、料金未払いによって車が止められても、支払いを済ませればすぐに車は動きます。最も分かりやすい形でのFinTechビジネスを実現していると自負しています。

ただ、まったく新しいビジネスですから、自治体と提携しないと一貫性を欠くことになってしまいます。末端のドライバーからの意見を吸い上げ、タクシー組合から推薦をいただき、市の交通局で議論をしてもらう。そうした取り組みを経てマカティ市、ケソン市、パサイ市など5都市と提携しました。現在は2ヵ月に1都市の割合で増えており、まずは中心部を網羅したあと、フィリピン全土に広げていきたいと思っています。

——実際にリース同様のサービスとして提供し始めて、貸し倒れはありませんでしたか?

視察に訪れる方がもっとも驚かれるのがデフォルト率(債務不履行状態に陥ってしまう確率)です。これまで、金融機関があらゆる手を尽くしてもデフォルト率は20パーセントにのぼっていましたが、私たちのデフォルト率は0パーセント。ASEANの方々を集めた会議などでも、その場がどよめくほどの脅威の数字です。だからこそ、私たちは自信を持って安全に運用し、利用者の方に喜んでいただくことができるともいえます。

——苦労した点は。

デバイスをつくるだけでなく、エコノミクス上成立させないといけないという点でした。MCCSの中には高機能の通信端末が組み込まれていますから、どうしてもコストはかさみます。しかしサービスとして成立させるためには、金利の中で吸収できるようにしなければいけない。調達や設計は非常にハードルの高いものでした。

世の中にまだない商品を生み出すというのは、非常に困難です。ただ、僕は幸いにして、電気自動車という世の中にない商品を企画した経験があります。当時、求められる機能や価格帯を考えたことが非常に役に立ちました。

僕は24年くらい経営をやっていますが、悔しい思い、苦しい思い、すべて覚えています。学習したことは積み上がっていきますから、経営力は歳を重ねることに上がっていきますね。

——『Rise Up Festa』受賞により、変わったことはありましたか?

『Rise Up Festa』はメガバンクが行う日本最大のピッチイベントとして以前から認知しており、このたび参加させていただきました。受賞して、周りの見る目は変わりましたね。さまざまな企業様からコメントをいただき、弊社の評価が上がったことを実感しています。直接的にはなかなかわかりにくいものがあるかもしれませんが、金融機関からの評価というものは絶大なものがあると感じています。

「俺、がんばっているだろう?」利用者からの確かな反応

——日本でも導入が始まっていると伺いました。現在はどのような状況でしょうか。

2017年4月から日本でも実証が始まりました。現在では日本全国津々浦々でMCCSが使われています。新車よりは中古車のニーズが大きいです。これまで金融機関の与信に通らなかった人たちが全く別の軸で借りられるということで、非常に良い反応をいただいています。まさに「ありえないプレゼント」のようなものなのだろうと感じています。

僕は思うんですが、銀行が自身の審査基準にアクセスせずにローンをする、そうした未来が来るのではないでしょうか。少なくとも1年以内にはそうなる、と信じているんです。

——新興国での反応はいかがですか?

フィリピンでこれをつけているドライバーのところに視察に行くと、みんな「どうだ、俺がんばっているだろう?」って言ってくるんですね。これが、僕は非常に重要なことであると考えています。MCCSをつけることで、自分の価値創造に繋げようとがんばっているんですね。フィリピンはキリスト教の方が80~90%を占める国ですから、「真面目に働いていれば必ず神は見ていてくれる」という発想とMCCSの親和性が高かったのかもしれません。

MCCSをつけていることで、働き方を最適化できるというメリットもあります。たとえばタクシードライバーの場合、お客さんを何人乗せられるかというのはセンスの問題もありますが「働くべき時間にちゃんと車を走らせる」ことのほうが大切なのですね。朝のピークタイムを外して働き始めても稼げるわけがないのです。そうした指導を行うことで収入が増え、未払いリスクも減らすことができます。技術の力で、働き方をも変えていけるのです。

テクノロジー力を持つ日本企業が取り組むべきIoT、FinTechとは

——IoT、そしてFinTech業界について、一言いただければと思います。

現在、世界中で車を買えない人々は20億人もの数にのぼります。しかしGMSのサービス利用者が、借りた車を使ってがんばれば、もしかして5年後には100台の車のオーナーになっているかもしれません。10年後には1万台ぐらいの車を所有する会社を経営しているかもしれません。貧困層の方々が生まれ育った環境を抜け出そうというパワーは並大抵のものではありません。それをサポートするのが、テクロノジー力を持った日本企業のあり方ではないかと思います。

テクノロジーにもイノベーションにも、必ずヒントがあります。GMSのビジネスや取り組む姿勢を見た他の業種の方々、あるいはIoT業界の方々が「自分達もやってみよう」とか、「自分たちの周りにはこういう問題があるじゃないか」と気づきを得て、良い模造、模倣が生まれるきっかけになったらいいなと思っています。IoTとFinTechで解決すべきものは、身近なところにまだまだたくさんあるだろうと、僕は考えています。