医療業界の変化も追い風となり、求められる存在に

——3Dの心臓モデルというのは、どのような需要があるのですか?

つくっているのは、たとえば赤ちゃんの複雑な先天性心疾患の心臓モデルです。日本では毎年、約100万人の赤ちゃんが生まれ、うち100人に1人、つまり1万人くらいが心疾患を持っています。手術が必要なのは3,000人~4,000人ぐらいで、中でも1,000症例ぐらいが複雑で手術が難しいものです。私たちはこの方々を対象に、赤ちゃんの心臓のモデルをつくっています。

3Dの心臓モデルは、赤ちゃんのCTスキャンのデータをもとにそっくりそのまま再現します。そして手術の前に「切る」「縫う」といった入念な術前シミュレーションを行っていただくことができます。

内部まで忠実に再現された心臓モデルを制作している

——医師の方々からの評価はいかがですか。

一度この3D心臓モデルを使ってくださった先生からは絶賛されています。心臓の手術は通常、人工心肺をつけ、心臓を止めて行います。しかし、赤ちゃんの心臓は2時間ぐらいしか止められません。先生が実際に心臓を開けてみて「どうしたらいい?」と迷っている時間がないんです。この時間制限の影響で一部しか手術が行えず、小さな子が何回も手術を受けることもあります。僕らのモデルを使えば、今まで2回3回と分けていた手術を1回でできる。入院期間も短くなり傷跡も少なくできます。医療経済効果も出ます。何より、今まで救えなかった命が救えるようになったという声もいただき、非常に評価をいただいています。

当社の仕事が評価される背景には、医療業界の変化もあります。
昔と違って、ベテラン医師が若手医師を育てることが難しくなっています。かつてはベテラン医師が手術室で若手を教える機会があったようですが、手術室の可視化によって難しくなっているようです。また、ブタの心臓なども練習として使われることがありますが、ヨーロッパでは既に、倫理上の問題から動物実験が行いにくい状況になってきているそうです。だから、世界一再現性の高い臓器モデルをつくれる私たちの出番なんです。

2009年からプロジェクトをスタートして丸8年、成果は出てきました。大人の心臓モデルはもちろんのこと、肝臓や肺、腸などあらゆる臓器をつくることができます。近い将来、患者さんにオーダーメイドでモデルをつくって役立てる医療機器にしようということで、厚生労働省と交渉を続けています。

——海外との取引も増えてきているとのことでした。

海外からも高い関心を寄せていただいています。毎週水曜に有料の会社見学会を開催し、年間2,000人が弊社を訪れるのですが、世界中から視察に来られています。

海外からのご依頼も、少しずつ増えてきました。将来的には私たちのモデルで術前に入念なシミュレーションをしてから難しい手術を行う、というスキームを世界標準、デファクト・スタンダードにしたいと考えています。

できるはずがない……“問題”が“機会”に変わるまで

——そもそも、なぜ3Dの心臓モデルを制作するに至ったのでしょうか。

きっかけは2005年、大阪の国立循環器病研究センターの先生から「柔らかい心臓のモデルをつくってほしい」という依頼をいただいたことです。ただ、このときは技術的に難しいと判断し、お断りしました。「できるわけがない、どうやって断ろうか」という思いで頭がいっぱいになっていたのです。ただ、今思えば僕が経営者として未熟でしたね。

ドラッカーの言葉に「問題ではなく、機会に焦点を合わせることが必要である」(※)という有名な一文があります。お声掛けをいただいたとき、僕はそれを明らかに「問題」として捉えていました。最初にお話をいただいてから4年、先生から「君のところに断られたけれども、心臓モデルをつくってくれるところがまだ見つからないんだ」と連絡をいただいた際、それが「機会」であることがようやく理解できたんです。2009年のことです。

※経営学者ピーター・ドラッカーの書籍『経営者の条件』に収録されている。

圧倒的なスピードで、医療業界に貢献したい

——御社はもともと、ものづくりの開発工程における「試作」において事業をスタートし、「世界最速試作」を掲げておられました。その意図は?

「期待を超える試作品をどこよりも速く提供する」というのは、僕が最も大切にしている使命です。ドラッカーの『マネジメント』の最初に出てくるテーマが「我々の使命は何か」なのですが、使命を噛み砕いて言うなら「お客様と社会に貢献すること」です。この際、会社の使命は強みから生み出さなければなりません。

では、私たちの強みとするべきものは何か。それは「早さ」です。
開発の現場で試作を依頼する企業は、100社中100社が急いでいます。市場投入の時期が決まっているため、限られた開発期間で完成度を高める必要があるからです。つまり僕たちはモノだけでなく、時間をも提供しているんです。だからよく、自分たちの仕事を「時間提供業」なんて表現しているんですよ。速くなければ意味ない、だから私達は世界最速にこだわり続けます。医療系試作に関しても、圧倒的な試作スピードで医療業界に貢献したいと考えています。

「これでたくさん試してもらえる」ひとりでも多くの人に知ってもらうために

——『Rise Up Festa』にはどのような経緯で参加されたのでしょうか。

応募のきっかけは、島津製作所さんからの紹介です。最優秀企業の賞金の額(300万円)を見て「これで心臓モデルをたくさんばらまける」と思いました(笑)。

オーダーメイドで赤ちゃんの心臓をつくると、約25万円かかります。今は全国の執刀医の先生にサンプルとして提供し、実際に使ってみていただくということをしているのですが、ほぼ100パーセントの先生が「最高や!」と必ずいい評価をしていただけるんです。最優秀賞の賞金を、より多くの先生に使ってみていただくために使いたい。そうした目論見で狙いました。

もちろん、お金だけではありません。応募した一番の理由は、いろいろな人に会社を知ってほしいという思いがあったからです。心疾患のある赤ちゃんは100人に1人。決して珍しいことではないのです。僕が大きな講演会場でお話をすると、「実は私、心疾患で……」「息子が」「妹が」という方が必ずいます。少し大きなコミュニティであれば、必ず身近にいる。メガバンクが主催するビジネスコンテストという大きなチャンスを活用することで、1人でも多く、クロスエフェクトの心臓モデルを知っていただきたいと考えていました。

人の命を救うという意義によって、皆を幸せにしていきたい

——今後の事業の方向性は、どのようにお考えですか。

尊敬する方から「竹田くん、君がやっていることには意義があるよ」と言われたことがあります。その方には「仕事は内容ではなく、意義で選べ」と言われました。「儲かるから」とか「楽そうだから」といった理由ではなく、意義で選べと。そうすれば、たくさんの人が応援してくれるから。そんな言葉をもらいました。

僕らの仕事には「人の命を救える」という意義があります。もちろん、株式会社ですから利益も大切にしています。それでも、僕は意義を大切にしたい。人の命を救うということは、世の中で最大の社会貢献です。確実に技術を磨き、事業として成り立たせていく。そして病気の人はもちろん、社員を、社員の家族を、ひいては社会をとたくさんの人を幸せにしたいと考えています。非常に難しいことですが、それが僕に課せられた最大の仕事だと考えています。