誰もやってくれないなら、自分がやるしかない

――まず、事業内容について教えていただけますか?

はい。AsMamaでは支援したい人と支援してほしい人達が出会えるような「地域共助」事業を全国で展開しています。具体的には、1時間500円で子供の送迎託児ができる仕組みを、知人間共助のインフラとして提供しています。知人がいなくても、「ママサポーター」というAsMamaが認定する託児研修・訓練受講済みのメンバーと顔見知りなることで預けられる環境を創ることができます。

――起業のきっかけは?

2009年1月に前職を退職し、このときに通った職業訓練校で、有能な女性達が出産を機に仕事を手放し、社会復帰に悩んでいる現実を目の当たりにしたのがきっかけです。

国は女性の社会進出を奨励しているのに、実際にそれをサポートする環境はない。この現状を見て、私は憤りに近いものさえ感じました。これをなんとかしようと、行政や企業の新規事業サービスに相談したものの、「収益化が難しい」という理由でなかなか相手にしてもらえませんでした。でも私は、前職の広報・IRの経験から、「これだけ世の中の人の需要があるなら必ず反響があるはず」という確信のようなものがあったんです。

誰もやってくれないなら、自分がやるしかない、それがAsMamaを立ち上げたきっかけでした。

失敗の連続からの逆転劇

――なぜ家事支援などではなく、子育て支援にしたのですか?

子育てのために仕事を手放さなければいけない女性達がいる一方で、社会と関わりたくても関われない専業主婦の方達がいることに気づいたんです。
彼女達は家事育児に情熱を注いでいるにもかかわらず、社会から評価がもらえずに不安をもっていました。本当は社会の役にも立ちたいし、家計の足しになるお金を稼ぎたいと思っているのに、子供を手放したくないためにパートにもいけない。そんな彼女達が無理せず手伝うことができて、働く女性達にも嬉しいシステムを考えた結果、子育て支援のインフラ創りにたどり着きました。

また、子育て支援は参入障壁が高いんです。人の命を預かるわけなのでリスクがとても大きいですし、顔も知らない人や場所に子どもを預けざるを得ない環境ではなく、親子共に安心できる「顔見知り」という環境にこだわることこそが重要と考えていたので、今の社会では希薄になってしまった「頼りあう文化」をつくる、ということから始めなければならない。でも、だからやる価値があるとも思いました。

――文化をつくるところから始まったんですね。

はい。なので、ここにくるまでは試行錯誤の連続でした。
最初は、助けたい人と助けてほしい人が「出会う場」さえつくれば繋がっていくだろうと思って、3ヶ月で100回以上のイベントを開催してみました。でもなかなか繋がっていかない。
このイベントは有料で開催していましたが、考えてみればそんなお金を払える人はそもそも助けが必要ないんじゃないか、と思って。じゃあ参加者が無料で参加できるように、イベントに企業協賛をつけようとしたんですけど、そのためには大勢の参加人数がいるんですよね。でも、数百、数千という人数がいるとその中で知り合いをつくろうとする動きはますます起こらない。

結局、1年が過ぎてもなかなか頼り合いが起きなくて、「場なんてつくっても頼り合いなんて起きないんじゃないか」と思うようになりました。「どうしたらいいかわからない」とメンバーに話すと、みんなカンカンに怒って、13人中11人が退職してしまいました。

――そんな最悪の状況からどうやって巻き返したんですか?

どうしようかなぁと思っているところ、2010年10月、NPO法人ETIC.主催の社会起業塾に入ることができたんです。そこで、自身の事業について1000枚の街頭アンケートを配るという課題が出て。

すごく嫌だったので、1日200枚配って5日で終わらせちゃおうと思ったんです。でも、朝の7時から駅前に立って呼びかけても、全然配ることができない。1日目は2枚、2日目にいたってはゼロでした。3日目は大雨だったんですけど、途中、湿気でよれよれになった998枚のアンケート用紙を見て、心が折れました。思わずメンター(塾での相談役)に「もうアンケートやめたい」と電話をかけたら「甲田さんて意外と根性ないんですね」と言われたんですね。それで私、カッチーンときたんです。

そこから意識が180度変わって(笑)。まずは怪しまれないことが大事だと思って、たすきと拡声器を買ってきて、駅前で「みなさんおはようございます、地域の頼り合い子育て事業に取り組んでいるAsMamaの甲田と言います」と呼びかけたんです。それを見て、地域の子育て支援拠点をやっている人、保育園の先生などが最初は怪しげな顔をしつつも次第に声をかけてくれるようになりました。でも、警察官の職質には合うわ、同じ保育園のママ達の間で変な噂が立つわで、このときは本当に辛かったです。

でも、配布が400枚を超えたあたりから、徐々に状況が変わってきました。
まず、効果的な配布場所が分かるようになってきました。タイムセールが始まる夜8時のスーパーとか、ディスカウントストアには、子育てに奮闘する人たちが集まる狙い目です。
また、助けを必要としている人や地域の役に立ちたいと思っている人も、なんとなく見てわかるようになっていました。

「子育てで困ってることはないですか」と声をかけると、最初は、「大きなお世話です」って言われるんですけど、自分も同じ境遇であること、この現状を変えたいと思っていることをしつこく説明すると、ある時心を開いてくれる瞬間があって、中には「シングルだからダメだと思われたくなくてひとりでがんばっているけれど、本当は不安でいっぱいなんです」と泣き出すお母さんもいました。そんな日々を繰り返すうちに、「誰かが何とかしなければいけないほどに困っている人は、やっぱりいる」と確信しました。

幼稚園教諭や保育士資格をもつお母さんたちも動きを見て分かるようになりました。子供たちに対する話し方、手の差し伸べ方が全然違うんです。彼女たちに話を聞くと、ほんとに子供が好きなんだなぁ、ってことが分かる。「まさに社会の宝がここにあるのに、この人は自分がその宝だということに気づいてないんだな」と思うようになりました。

当初5日で終わらせる予定だったアンケートの配布を終えたのは、5ヶ月後の2011年2月。この頃には、もう、なにがなんでもやらなければ、という思いが確信に変わっていました。

――1000人アンケートが終わってから、どんな風に変わっていったんですか?

アンケートの結果、イベントをやっていても繋がらないのは、お互いが遠慮していたからだということがわかりました。助けてほしい人は「自分の子供でさえ大変なのに、他の家の子供まで面倒見たい人なんていないんじゃないか」と思っているし、助けたい人は「かわいい盛りの子供を預かりたいと言うなんて、厚かましいと思われるんじゃないか」と思っているんです。

こうしたすれ違いを解消するために、AsMamaでは2011年4月に「ママサポーター制度」を開始しました。「助けたい人」は、オレンジTシャツを着て「ママサポーター」と名乗る。こうすることで「私はママ業をサポートしたい人です」ということを可視化するようにしました。

また、ママコミュニティでは仲間内で交換する情報を強く信用する傾向がある点に気づいたので、これを、商品を広めたい企業の広報の場に活用してはどうかと考えました。
ママサポーターは、暮らしの役に立つ企業のサービスや商品の情報をもって回れば頼り甲斐もアップするし、活動費用を企業に負担してもらえれば、ママサポーター自身の周知活動にも奨励金を出すことができる。
頼りたい人にとっては役立つ情報を得られて嬉しいし、企業は潜在的な顧客を掘り起こしたり、ニーズを見つけるのに役立つ。こうして三方良しの地域交流事業ビジネスモデルができました。

2012年8月に、念願だった保険会社さんとの提携が叶い、それとほぼ同時期に顧問契約でWebの開発をしてくれる会社を見つけることができたことで、 2013年4月に、顔見知り同士が繋がって子供の送迎託児を頼り合う仕組み「子育てシェア」をスタートすることができました。

AsMamaの現在、そして未来

――AsMamaの事業としての現状と、これからどう変化していくかについて教えてください。

現在の子育てシェアのマッチングの内訳は、これまでママサポーターが90%だったところ今では50%ほどになっています。今後も、どんどんその割合を減らしていきたいと思っています。
また、これまでイベントを通じた企業の広報支援を主な収入源としていたものを、2014年1月より、様々なコミュニティに入って地域共助を形成する実践型コンサルティングを行うことで収入を増やしています。現在、不動産・学童・習い事など40社ほどが導入してくださっていますが、今後はもっと導入先を増やしていきたいと考えています。

――そんなAsMamaの未来にRise Up Festaはどんな意味をもつのでしょうか?

『Rise Up Festaのソーシャルビジネス部門では最優秀賞を受賞』

なにか新しいことを始めるときに重要になるのは「信用力」だと思っています。まだ実績が何もない企業にとっては、大きな会社とタイアップしていたり、メディアに取材してもらったり、ビジネスコンテストで受賞したりして、「この会社は大丈夫」というイメージを思ってもらうことが事業を加速する手助けになるんです。

その点でRise Up Festaは、審査員の方々の専門知識の高さ、主催の三菱東京UFJ銀行さんのネームバリューなど、説得力が格段に違います。弊社でもさっそく、地域共助のコンサルティング事業の企画書や提案書に、「Rise Up Festa最優秀賞受賞」と掲載させていただいています(笑)。それだけでも「これはなんですか?」という会話のネタになるんですよね。

――ありがとうございます。最後に、AsMamaがこれからどうなっていきたいか、未来のビジョンを教えてください。

AsMamaのミッション・ビジョンには「子育て支援」とは書いていないんです。「支援したい人」と「支援してほしい人」が安心して会えて、頼りあえる仕組みをつくるのが私たちのミッション。最終的にはこれを社会のインフラにまで高めていきたいと考えています。